※今年度の展示は終了いたしました。
アサガオの遺伝学は日本が中心になって研究が進められてきました。2016年には日本人研究者の努力により、ついにアサガオの全ゲノムDNA配列が高精度で決定されています(Hoshino et al., 2016, Nature Communications 7)。そのゲノムDNA配列決定に用いられた標準系統が、この東京古型です。ここで展示しているのは、そのゲノム配列に使われた株のクローンです。
東京古型は、もともとは国立遺伝学研究所の竹中要博士が、東京の下町で栽培されていた系統の中から、野生型の特徴を多く示すものを選び、何代も自家受粉で種子を採って純系化したものです。アサガオは江戸時代に、動く遺伝子・トランスポゾンが活性化して多数の突然変異が現れ、大輪咲きや花色の変異だけでなく、見るからに奇妙な形の変化朝顔群が生まれたわけですが、この東京古型はトランスポゾンが不活性状態に保たれているため、何代でも安定して同じ姿を示します。その特性を活かして、アサガオゲノムのDNA配列決定の材料に選ばれました。由緒正しいアサガオと言えます。
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本展示の東京古型は、アサガオゲノムの解読プロジェクトの中心となった基礎生物学研究所・星野敦博士から、アサガオバイオリソースプロジェクトの一環として提供いただきました。
江戸時代にアサガオのゲノムに異変が起きました。「動く遺伝子」トランスポゾンが活発化し、アサガオの遺伝子が次々と突然変異を起こしたのです。ちょうどその頃は、日本も江戸時代のさなかで太平楽。風変わりなものを見つけては愛でる文化が発達していたため、急速に園芸品種として確立していきました。特に大名など、経済的にも知識的にも余裕のある階層で大いに流行したものです。
ここで展示しているものは、変化咲きアサガオの中でも、そうした突然変異が2つ以上組み合わさってできた上物です。これらの突然変異の多くは、タネを付けない性質も持っていたため、こうした系統を維持するためにはメンデルの遺伝の法則の少なくとも一部を理解していないといけません。
ところが江戸時代はまだメンデルの法則が世に知られていなかった頃です。惜しいことにこうした変わり者の維持方法は、各家の秘伝とされていたため、そのせっかくの遺伝の知識は、極秘のうちに埋もれていました。公開していれば日本の江戸こそが、遺伝学が最初に一般知識となった都市となっていたかもしれません。
その代わり、今では分子遺伝学的手法により、これらの変異の原因遺伝子が次々と明らかにされてきています。アサガオ「東京古型」のゲノム配列決定も、そうした研究の一環です。
本展示は、ナショナル・バイオリソースプロジェクト「アサガオ」の協力のもと、九州大学・仁田坂英二博士より苗の提供を受けて実現しました。