研究内容

(1) コミカンソウ科ーハナホソガ属絶対送粉共生系の起源と進化

 

 

 コミカンソウ科は全世界の熱帯域を中心に約2000種が知られていますが、このうちの約500種は、それぞれの種に特異的な種子食者であるホソガ科ハナホソガ属のガによって送粉されています。ハナホソガはコミカンソウ科植物の雌花に産卵し、孵化した幼虫が発達途中の胚珠を食べて成長します。驚くべきことに、ハナホソガは花に産卵する際、幼虫の餌となる種子が確実に作られるように、口吻を用いて自ら雄花で花粉を集め、雌花へ運ぶという行動を進化させています(写真)。ハナホソガの幼虫は胚珠を食べながら成長しますが、一部の種子が必ず食害されずに残るため、植物は種子を残すことができます。このように両者は互いの存在なしには繁殖できないほど依存しあった絶対的な共生関係にあります。

 

 このように植物とその種子を食害する送粉者の間の絶対送粉共生系は、イチジクとイチジクコバチ、およびユッカとユッカガの間で古くから知られていましたが、コミカンソウ科とハナホソガ属の間の共生系は近年発見された新たな例であり、生物種間の共生系の起源や共進化の動態を明らかにする上で優れた研究材料です。私はコミカンソウ科における絶対送粉共生系を用いて、以下のような研究を行っています。

 

(1) コミカンソウ科では、どのような送粉様式を持った植物から、どのようにハナホソガとの共生が起源したのか。また送粉するハナホソガに近縁な種はどのような生活史を持っているのか。

(2) コミカンソウの種子はなぜハナホソガにすべて食い尽くされずに、共生系が安定的に維持されているのか。

(3) 種特異性が高い植物と送粉者で、両者の種分化はどれほど同調して起こるのか。

(4) 植物と送粉者の高い種特異性は、なぜ、どのように進化したのか。

(5) 植物と送粉者の共進化は、両者の多様化を促進するのか。

 

コミカンソウ科とハナホソガ属の共生についてはこちらで詳しく解説しています 

(2)被子植物の送粉様式の多様性の解明

 

 被子植物の花の多様性は、それらの花粉を運ぶ動物との関係が多様であることを物語っています。ハナバチやチョウや鳥が花で蜜を吸う光景は私たちになじみ深いものですが、植物の中には、見た目からはどのような昆虫に花粉が運ばれているのか全く想像できないような、変わった花をつけるものが少なくありません。送粉様式が分かっていない植物で送粉者を特定したり、効率的に送粉を成し遂げるために花にどのような適応が見られるのかを明らかにしたりすることが、花の多様性を理解するためには不可欠です。

 

 例えば、私たちになじみ深い植物であるアオキは、鮮やかな赤い実が印象的ですが、早春に独特の赤紫色の花をつけ、それらがおもにキノコバエ類に送粉されていることを明らかにしました(Mochizuki & Kawakita 2018)。興味深いことに、同じような赤紫色の花は、ニシキギ科、ユキノシタ科、マンサク科、ユリ科などにも見られ、やはりいずれもキノコバエ類に送粉されています。アオキのように、私たちにごく身近な植物にさえまだ知られていない相互作用があったことを考えると、植物と動物の関係は、私たちが理解しているよりもはるかに多様であるのかもしれません。

 

図.キノコバエ類によって受粉される日本の野生植物。

(A) アオキ(ガリア科、雄花)

(B) アオキ(雌花)

(C) ムラサキマユミ(ニシキギ科)

(D) サワダツ(ニシキギ科)

(E) クロツリバナ(ニシキギ科)

(F) マルバノキ(マンサク科)

(G) クロクモソウ(ユキノシタ科)

(H) タケシマラン(ユリ科)

(I) コチャルメルソウ(ユキノシタ科)

(J) チャルメルソウ(ユキノシタ科)

チャルメルソウ属におけるキノコバエ媒についてはOkuyama & Kato (2004)による先行研究がある。